今回の記事では、ASUS が Qualcomm の Snapdragon X Elite プロセッサを搭載した Copilot+ PC として初めてリリースした「ASUS Vivobook S 15 S5507QA」の実機レビューをお届けします。なお、本レビューにあたり実機の貸し出しを受けています。
この「ASUS Vivobook S 15 S5507QA Copilot+ PC (S5507QA-HA321W)」は、ASUS JAPAN が2024年5月21日に国内投入を発表したモデルで、昨年 Qualcomm が Windows ノートパソコン向けに発表した NPU を備える新しい ARM ベースのチップセット Snapdragon X Elite を搭載し、Microsoft の Copilot AI 機能が統合された Copilot+ PC Windows ノートパソコンとなります。
AI 機能も特長の一つではありますが、新しい Snapdragon X Elite プロセッサのおかげで機能と性能だけでなく主にバッテリー駆動時間が改善され、全体的なパフォーマンスが向上したことが大きなポイントです。
さらに ASUS Vivobook S 15 S5507QA は15.6インチと大型ディスプレイを搭載しながらも重さはわずか1.42㎏、厚みもわずか1.47mmと持ち運びのしやすいデバイスでありながら、MIL-STD 810H に準拠した堅牢性を備えていることも特長となっています。
スペック
まずは今回レビューしている ASUS Vivobook S 15 S5507QA のスペックです。国内では現在 Qualcomm Snapdragon X Elite X1E-78-100 プロセッサ、32GBRAM、1TB ストレージを搭載した1モデルのみが販売されています。
OS | Windows 11 Home |
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ディスプレイ | 15.6インチ OLED 2,880×1,620 120z リフレッシュレート DCI-P3 100% 600nits 0.2ms 応答速度 グレア |
CPU | Snapdragon X Elite X1E-78-100 |
GPU | Qualcomm Adreno GPU |
RAM | 32GB LPDDR5X 8448MHz |
内部ストレージ | 1TB PCIe 4.0 SSD |
外部ストレージ | microSD |
Webカメラ | 207万画素 UR カメラ プライバシーシャッター |
ポート | USB-C (USB4) ×2 USB-A (3.2 Gen 1) ×2 HDMI ×1 3.5mm オーディオ |
ネットワーク | Wi-Fi 7 Bluetooth 5.3 |
バッテリー | 最大18時間 高速充電対応(49分で60%) |
その他 | Windows Hello 顔認証 MIL-STD 810H RGBバックライトキーボード |
サイズ | 352.6×226.9×14.7〜15.9mm |
重さ | 約1.42kg |
パフォーマンスが大きく改善した Snapdragon X Elite プロセッサと32GBRAM を搭載することで、ノートパソコンでは Intel Core i7-1260P や Core i7-1360P といったインテルのハイエンドチップセットと同等の性能を備えています。これについては後程ベンチマークを紹介します。
もう一つ付け加えるポイントはディスプレイで、Vivobook S 15 S5507QA には120Hzリフレッシュレートに対応した 15.6インチ 2,880×1,620 OLED ディスプレイが搭載され、DCI-P3 100% の色域をカバー、応答速度は0.2msとなっています。
このほかにもポートは 2つの USB-C USB4 ポート、2つの USB-A ポート、HDMI ポートと microSD カードスロットと充実していることも特長です。バッテリー駆動時間は公称値で18時間と非常に長く、49分で60%まで充電できる高速充電に対応しています。
では Vivobook S 15 S5507QA を実際に使用してみた印象をまとめていきます。
デザイン
まず、本体はアルミニウムボディとなっており、薄さと堅牢性、高級感を備えつつも軽いです。重さは15.6インチというより標準的な14インチノートパソコンくらいなので、持ち運びがメインのユーザーでも負担は少なくて済みます。
天板に ASUS VIVOBOOK のロゴがあり、全体的にシンプルなので学校や職場などでも使いやすいです。
本体の左側面には HDMI ポート、2つの USB-C(USB4) ポート、MicroSD カードスロット、3.5mm オーディオジャックがあります。右側面には USB-A ポートが2つとなっています。
ポートの充実は確かですが、USB-C ポートは左右に散っているほうが取り回しがしやすいため、左に寄ってしまっている点は残念です。またAポートも右側にあると仮に有線接続マウスを使うときなどは不便なので、このあたりは分散していればより便利だったと思います。
続いてキーボードですが、このモデルはテンキーを搭載しています。これについては賛否あると思いますが、テンキーが必要なユーザーであれば悪くはないと思います。ただ、テンキーはやや細長い(小さい)キーの配置になっています。
キーピッチはしっかりと取られていてエンターキーもちゃんと幅のあるタイプですが、エンター周りは相変わらず窮屈になっていて今回も Backspace キーが隣の[¥]と隣接しているタイプです。
しかもテンキーがあることで右側にも[+]キーがある(隙間はある)ため、慣れないとかなりミスタイプが発生します。私は1週間ほど使っていますが、もともとホームポジションがずれていることなどもあって、どうしても最後まで慣れませんでした。当然、これは人によると思いますが、購入の前にはテンキーの必要性や ASUS の日本語配列に慣れるかどうかを考慮するほうが良いと思います。
キーの打鍵感は少し長めのストロークですが、強く押さなくても入力できるため文章作業がメインでも快適です。また、キーキャップがわずかに凹型になっているため指にフィットしやすくなっています。
ちなみにCopilot+ PC な ASUS VIVOBOOK には Microsoft Copilot の専用ショートカットキーが備わっていて、これを押すと Copilot が立ち上がります。画像生成したいときやアイデアをまとめたいときにさっと呼び出してさっと隠すということができれば便利です。
なお、この記事を投稿する直前に Copilot キーの挙動が変更されたようで、以前までのように Windows の設定やアプリの操作などができないウェブアプリが起動するようになっています。
また、Vivobook S 15 S5507QA のキーボードはシングルゾーン RGB バックライトキーボードを備えており、Windows の設定や MyASUS アプリを使用してバックライトの色や点灯パターンを変更することができます。
人によってはあまり使う機会はないかもしれませんが、気分を変えたいときなどに設定が簡単なのでアリです。
タッチパッドも大きめのサイズとなっていて、上と左右の3辺を指でスライドするとショートカットとして機能することも特長です。
このショートカットは、タッチパッドの左端を上下にスライド(スワイプ)させると音量の増減ができ、右端の上下にスライド(スワイプ)すると画面の明るさを増減できます。上部端を左右にスワイプすることで、音楽や動画を巻き戻し/早送りをすることができます。
ディスプレイは15.6インチで120Hzリフレッシュレートに対応した2880×1620と高解像度ですが、一般的な16:9 のアスペクト比を採用しています。
デフォルトでは200%に拡大表示(実質1440×810)となっているため、フルHD(1920×1080)で使うなら設定から拡大を150%に下げる必要があります。視力や作業内容にもよりますが、私の場合は15.6インチと大きめのディスプレイを活かして125%表示(2304×1296)が便利でした。
色味や視野角の広さなどにとくに不満はなく、明るさも600nitsあるのでディスプレイに大きな不満はありませんでした。欲を言えば16:10のアスペクト比にして縦の表示領域がもう少しあればさらに便利だったかもしれません。
ちなみにこのモデルは180度フラットまで天板を開くことができるので、タッチ対応があっても面白かったかも。
パフォーマンス
続いて実際の使用感ですが、少なくとも Chrome ブラウザをメインにしている私の作業では不満はほぼ発生しませんでした。タブを30~40個あたり開いても安定して動作しており、時折 Microsoft Office で Word や Excel を使っても違和感のある動作などはありませんでした。Lightroom や Photoshop などを使うときでも軽めの編集作業であればもたついたり落ちることはなく実用的です。
実際のデバイスで測定したベンチマークスコアは次のとおりです。いつも使っているベンチマークソフトが対応していないこともあり、これまでのスコアに比べると測定したソフトウェアは少なめです。
ベンチマークソフト | スコア |
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Geekbench Single | 2,402 |
Geekbench Multi | 13,511 |
Geekbench OpenCL | 15,625 |
Geekbench Vulkan | 24,026 |
FF14 (最高品質 1920×1080) | 3,342 (設定変更を推奨) |
FF14 (高品質 ノートPC 1920×1080) | 5,918 (普通) |
FF14 (標準品質 ノートPC 1920×1080) | 6753 (やや快適) |
Octane v2 Plus Single | 78,820 |
Octane v2 Plus Multi | 648,419 |
JetStream2 | 295 |
Speedometer 3 | 26 |
大まかに Geekbench や Octane などのスコアを参考にするとインテル第12世代や第13世代の Core i7-1260P / 1360P などと同程度で、Windows ノートPC向けとしてはゲーミングPCなどを除きかなり上位のスコアとなります。実際の使用感もそれに近いもので、Intel Core i7-1265U / 16GBRAM や Core Ultra 5 / 16GBRAM を搭載した Winodws ノートパソコンと比較しても遜色なく快適です(むしろここまでくると差はわかりづらいが)。
一方、バッテリー駆動時間も非常に長く、私の使い方では1時間あたり10%~12%程度の消費でした。そのため、フル充電の状態から8~10時間は使うことができます。
私の使い方はほとんど Chrome ブラウザでの作業(常時10~20個はタブを開き、最大50個近くまで開く。メモリセーバーは有効)で、電源モードはバランス、明るさは60%程度、キーボードバックライトオフ、Wi-Fi / Bluetooth は有効にした状態が主です。これまでの Windows デバイスは同じ使い方で5~6時間持てば良かったほうなので、10時間近く持つかもしれない Snapdragon X Elite の ASUS Vivobook は非常に優秀だと思います。何より性能を犠牲にすることなく長いバッテリー駆動時間を実現していることは素晴らしく、出先でも安心して作業を行うことができます。
しかし、ARM プロセッサであるがゆえに対応するアプリケーションが未対応のものが多いことがネックです。幸い Google が Chrome ブラウザ を ARM プロセッサ向けに最適化してくれたおかげで、私の仕事もブログも大きな影響はありませんでした。ほとんど Chrome ブラウザ上で動作するアプリとサービスなので動作保証できるアプリは少ないですが、たまに使うことのある以下のアプリは問題なく使うことができました。
- Chrome
- Lightroom
- Photoshop
- Figma
- Google 広告エディター
- Google Web Designer
- ロジクール Option+
- Notion / Notion カレンダー (Windows 版)
- Todoist for Windows
- Spotify
- Visual Studio Code
一方、動作しなかったアプリは Google 日本語入力、Google ドライブ デスクトップ版などがありました。これら2つは必須ではないものの使えないと効率がガクッと落ちてしまうので困ります。
これはアプリやサービスの今後の対応次第ではありますが、人気のあるアプリでも動作しないことが多いので、使っているアプリ次第ではまだ Snapdragon X Elite / Plus 搭載デバイスに手を出すのは早いかもしれません。もしくはウェブ版や別のアプリやサービスなど代替手段を探す必要があります。
また、Snapdragon X Elite にも搭載されている AI 機能などに最適化された NPU ですが、現状では実用するサービスやアプリがかなり限定されています。仕事などで使う機会があるとすれば、主にオンライン会議に参加するときのカメラの背景ぼかしになると思います。
この機能は各サービスの組み込みの仮想背景や背景ぼかし機能ではなく、Windows の設定からアクセスできる [Bluetooth とデバイス] > [カメラ] > [ASUS FHD Webcam] から設定できる Windows スタジオエフェクトを利用することで、CPU ではなく NPU で動作が割り振られます。
正直、ここに割り振られたからといって大きな差は体感できませんが、オンライン会議中などで少しでも CPU の使用率を下げたい場合などでうまく活用することで、バッテリー駆動時間にも良い影響が出ることが期待できます。
現時点では NPU を活かす機会は少ないかもしれませんが、Snapdragon X Elite を搭載した ASUS Vivobook S 15 S5507QA は性能とバッテリー駆動時間のパフォーマンスに優れていることは間違いなく、これだけでも検討する価値があります。
なお、直接 AI とは関係ありませんが、デバイスにはユーザーを検出する機能が搭載されており、PCの目の前からユーザーが離れたら自動的にデバイスの画面をオフにしたり、近づいたらスリープを解除したり、画面から目を離したときに画面の明るさを暗くするといった機能も搭載されています。
そのため、個人での利用だけでなくビジネスで利用する場合にもプライバシー保護機能の一つとして活用することができるため、様々なシーンで使いやすいデバイスとなっています。
正直、NPU だから云々というよりも、Snapdragon X Elite のパフォーマンスで一つ上に引き上げられたデバイスに仕上がっているという印象が強いため、性能とバッテリー駆動時間のバランスという点だけでも魅力があります。
特に大型ディスプレイでテンキーを搭載しているデバイスを持ち運びたいと考えているユーザーにとって、重さは約1.42kgと軽量かつ薄型で、バッテリー駆動時間もこれまでの一般的な Windows ノートPCに比べて長いため、有力な候補になると思います。
まとめ
今回は ASUS から初めてのリリースとなった Snapdragon X Elite プロセッサを搭載した「ASUS Vivobook S 15 S5507QA」をレビューしていますが、性能とバッテリー駆動時間のバランスが高い次元でまとまっており、テンキー付きで持ち運べる Windows ノートパソコンを求めているユーザーにはおすすめの1台です。
一方、期待の Copilot AI 機能に関しては Microsoft 側の調整やその他のアプリ・サービスの対応状況によりイマイチ活かしきれていない印象です。とは言え、AI には今後期待するとしてもデバイス自体の完成度は高く、パフォーマンスの面だけでも十分魅力的なモデルでした。
ASUS Store にて249,800円で販売されていますが、記事執筆時点では公式ストアで10%オフクーポンが提供されているため224,820円の割引価格で購入することができます。国内では32GBRAMと1TBストレージモデルがこの価格なのでコストパフォーマンスに優れ、このタイミングで検討する価値はあると思います。
なお、Amazon でも直販通常価格よりも少しお得な価格設定で購入することができます。