今回の記事では、EPOS の業務用ヘッドホン「EPOS ADAPT 660 USB-C」の実機レビューをお届けします。
なお、本レビューにあたりメーカーから実機の提供を受けていますが、内容についてメーカーからの関与はなく、実際に使用したうえでの率直な感想をまとめています。
この「EPOS ADAPT 660 USB-C」は、オフィスでの業務から移動中の音楽鑑賞まで、様々なシーンに対応することを目的としたヘッドホンです。
アダプティブ ANC やクリアな通話、aptX コーデック対応、シンプルなデザイン、USB レシーバー(BTD 800 USB-C)による安定した通信接続といったビジネス向けの機能を備えています。
ブームマイクのついたいわゆるビジネス用ヘッドセットとは少しスタンスが異なりますが、自宅やオフィス、移動中でも使いやすいモデルです。
EPOS ADAPT 660 の主な特長
まず、ADAPT 660 が持つ主な特長をまとめます。
- レシーバーによる安定した接続とクリアな通話: USB-C レシーバー(BTD 800 USB-C)による PC との安定した接続と、機械学習とアルゴリズムを活用した 3 つの高性能マイクを最適化し、聞き取りやすい安定した音声通話を実現
- アダプティブ ANC による集中力の維持: 4 つのマイクを使用した ANC システムが周囲のノイズを監視し、オープンオフィスや屋外の風の中でも最適なノイズ低減レベルに自動調整
- UC 認定によるシームレスな連携: Microsoft Teams、Zoom、Google Meet の認証を取得しており、これらのプラットフォームでスムーズな連携が可能
- 高品質なステレオサウンドとマルチポイントペアリング: aptX コーデックに対応、同時に 2 台のマルチポイントペアリングに対応(最大 8 台まで登録可能)
- タッチ・コントロール&ヘッドセットコントロール: イヤーカップのタッチパッドによる操作と、イヤーカップを回転させることでヘッドセットの電源をオン・オフできる
一般的なヘッドホンのような見た目ですが、ビジネスで安定した接続で利用できるように USB-C レシーバー(ドングル)が付属していることがポイントです。
デザイン・装着感
ADAPT 660 はビジネス向けヘッドセットのカテゴリーですが、デザインは音楽鑑賞用の一般的なヘッドホンと変わらず、折りたたんでコンパクトに収納することもできます。

特長的な点は、電源のオン・オフをするときにはボタン操作ではなく、イヤーカップを90度回転させるユニークな機構を採用しています。
これにより直感的な操作が可能になりますが、ちゃんとフラットになるようにしておかないと、意図せず電源が入ってしまっていることがあるので注意が必要です。


長時間装着していても不快に感じない、しっかりとクッションの効いたイヤーパッドが装着されています。頭に当たる部分も同様にちゃんとしています。
ただ、イヤーカップのサイズがやや小さめで、耳の周囲を覆うというよりも耳にできるだけ合わせて覆うといった感じです。フィット感があり遮音性も高まっていると思いますが、人によっては小さい(収まりが悪い)もしくはキツいと感じることがあるかもしれません。
なお、フェルト素材のポーチが同梱されており、この中にヘッドホンとケーブル類、USB-C アダプターを収納しておくことができます。


ちなみにヘッドホンと3.5mmケーブル、ポーチだけであれば、重さは 309g と持ち運びもしやすいことがメリットの一つです。
操作性
ADAPT 660 の操作は、物理的なボタンやスイッチが少なく、ペアリング操作と ANC の段階調整以外は右側イヤーカップのタッチパッドで行います。まずは物理ボタンの操作から。
- 物理ボタン/スイッチ操作
- ANCモードの段階切替: ANC スイッチをスライドさせることで、「最大モード」「アダプティブモード」「オフ」を切り替えられます
- ペアリング: 紫色のボタン(Teams/ペアリング・ボタン)を 4 秒長押しすると、ペアリングモードになります

シンプルで良いのですが、このペアリングボタンにはアイコン表記がないため、初めて使う際は少し分かりにくいと感じました。
一方のタッチパッド操作は以下のとおりです。
- タッチパッド操作
- 音量調整: 上下にスワイプ
- 再生/一時停止: 1 回タップ
- 次の曲/前の曲: 前または後にスワイプ
- TalkThrough(外音取り込み): 2 回タップ(ANCがオンの場合)
- 通話応答: 1 回タップ
- 通話終了: 1 秒長押し
- マイクのミュート/解除: 通話中に前後(前から後ろでミュート、後ろから前でミュート解除)にスワイプ
再生/一時停止や通話応答/終了、音量調整、次の曲/前の曲といった操作は直感的に行えるので悪くはありません。TalkThrough(外音取り込み)も 2 回タップなので、慣れれば問題なく使えます。

なお、ANC モードは「アダプティブ」と「最大」のどちらでも問題なく、オンライン会議中は自動的に TalkTrough に切り替わります。また、TalkThrough が有効になると音楽再生は自動的に停止します。
タッチパッドの反応などは良いのですが、ヘッドセットの着脱時に意図せず触れてしまい、音楽が再生されてしまうことがありました。また、着脱検知がないため、音楽や動画再生中にヘッドセットを外して会話に参加しようとするときなどでも、意図的に停止させない限り再生されたままになってしまう点に注意です。
さらにボタンとタッチ操作のカスタマイズはできないため、割り当てられた操作に慣れる必要があります。全体として、慣れればスムーズに操作できるシステムですが、誤操作を防ぐ工夫(アプリでのタッチ操作無効化や動作変更)や着脱検知があれば、さらに使い勝手が良くなると感じました。
一点、気になったことと言えば、PC (ドングル) とスマートフォンの 2 つにマルチポイント接続しているとき、PC で YouTube や音楽再生を停止して数秒経過すると、なぜかスマートフォン側で音楽が再生されるという現象に遭遇しました。原因は分かりませんが、常に発生するわけではなく、割と起こる問題なので注意が必要です。
マイク
「EPOS ADAPT 660 USB-C」はビジネス向けヘッドセットというカテゴリーですが、ブームマイクがなく、イヤーカップに内蔵されたマイクで音声を拾います。そのため、マイク性能は周囲の環境によって大きく印象が変わりました。
例えば、自宅や静かな個室といった環境であれば、音声は比較的クリア(やや機械的ではあるが)で、オンライン会議でも問題なく使うことができます。とくに USB-C レシーバーによる接続に対応していることで、コンピューターとの接続が安定しているというメリットがあります。

一方で、カフェなどで常に周囲に雑音がある場所では、マイクのノイズキャンセリング機能で周囲の雑音は抑えられるものの、自分の声も少し機械的でこもったように聞こえることがありました。レシーバーで接続しているため途切れたりといったことはありませんでしたが、しっかりと声を届けられているかというと、さほどでもないという印象です。

そのため、自分がホストの会議など確実な音声品質が求められる場面では、ブームマイク付きの専用機(例えば EPOS IMPACT 100 など)を使うか、会議に参加するなら場所を意識する必要があります。
以下は実際に自宅とカフェにおけるマイクテストの音声です。
なお、オンライン会議中や通話中はサイドトーン(側音)が自動的に有効になります。効果の強弱はアプリから調整できますが、こちらも自分の音はクリアというよりも少しだけこもったような声になります。
音質・ANC
もう一つの強みである、音楽視聴や ANC についてですが、「ADAPT 660」はビジネス用途だけでなく、音楽鑑賞や動画視聴にも十分使える音質を備えています。
比較的自然な音で聞こえ、アプリから「音響モード」を切り替えることで、聞こえる音を若干調整することができます。
- 中: 明瞭さを高める場合(フラットに近い)
- スピーチ: 明瞭さを高める場合(少し音が軽くなり、声にフォーカスがあたる)
- クラブ : 室内にいる印象を高めたい場合(やや高音が強調される気がする)
- 映画: 気分が高まるエンターテイメントの場合(サラウンドのように聞こえる)
- ディレクター: カスタム設定
- ブースト: オフ、サンプ、ランブル、音声
- 空間: 近距離、中距離、遠距離
- リバーブ: オフ、低、中距離、高
- Dynamic Loudness Compensation : オフ、オン
ただ、ビジネス向けという点から、高音質がウリのヘッドホンほど良いわけではなく、イコライザーを含めカスタマイズできる項目が少ないため、音質を重視するユーザー向きではありません。
とはいえ、音楽鑑賞や動画視聴でも使う機会が多い場合には、十分対応できるレベルです。
ANC については、物理スイッチで「オフ」、「アダプティブ」、「最大」の 3 つを切り替えることができます。「アダプティブ」については、アプリ側から 8 段階で強弱を調整することができます。
最大にしたときは、扇風機のファンの音のような中低音のノイズを効果的にカットしてくれ、音楽を流していればカフェの雑音などはほぼ気にならなくなります。
ANC もプレミアムな価格帯のモデルと比べるとやや控えめという印象ですが、オフィス内やコワーキングスペース、カフェなどで集中して作業に取り組むときや、新幹線などでの移動時にも十分役立ちます。
アプリ
最後にアプリについてですが、PC またはスマートフォンに無料の「EPOS Connect」アプリをインストールすることで、いくつかの設定を変更することができます。
- ノイズキャンセリング
- 音響モード
- 側音(サイドトーン)
- オーディオリミッター
- トーン&音声プロンプト
- 音声アシスタント
- Bluetooth マルチポイントとペアリングの消去
- ファームウェアアップデート
なお、ファームウェアアップデートに関しては、Web 版の EPOS Connect for Web を使うことで、Chromebook でも実行することができます。業務用ヘッドセット業界では、Web アプリを提供しているメーカーは今のところ EPOS と Poly くらいしかないと思います。


ただ、これまでにも指摘しているように、例えばボタンやタッチ操作のカスタマイズやイコライザーの細かい設定などカスタマイズ性に欠けているため、好みの使い勝手に変更したいと考えているユーザーは、少し物足りないと感じるかもしれません。
ちなみに、途中で指摘している「着脱検知」についてですが、ユーザーガイドでは「スマート・ポーズ機能」として紹介されており、デフォルトでは無効になっています。アプリで有効化にする必要があると書かれていますが、アプリに該当する項目が表示されておらず、ハードウェアとしては対応しているかもしれませんが、実際に使うことができません。正直、アプリに関しては改善の余地があると思われます。
まとめ
やや使い勝手の悪いところもありますが、EPOS ADAPT 660 USB-C は、ビジネスユースの機能性とプライベートでの音質を一台に集約した「良いところどり」を目指したヘッドセットです。
それぞれの機能に特化したデバイスには敵わない部分もありますが、複数のデバイスを持ち歩くことなく、一台でこなせる利便性は大きな魅力です。
「普段は音楽やポッドキャスト、動画視聴などに使いながら、出先でも PC と安定した接続で、オンライン会議に参加したい」といった使い方をするハイブリッドワーカーにとっては、選択肢の一つとしてありだと思います。
とくに自宅やオフィス、移動中(新幹線)やホテルで音楽などを聞くことが多く、オンライン会議参加は専用ブースや個室など比較的静かな場所で行う場合が多い、といったユーザーは検討する価値はあると思います。
今回レビューしている EPOS ADAPT 660 USB-C に関する詳細は、公式サイトをご覧ください