Chromebook 向けの MediaTek 製プロセッサとして、新たに MT8189 の開発が進められていることが、開発コードなどから明らかにされています。
まだ未発表のチップセットですが、昨年発表された MT8188(Kompanio 838)との比較から、その方向性が見えてきます。
両モデルはともに ARM アーキテクチャを採用した 8 コア構成ですが、MT8189 は最新のリファレンスボード「Skywalker」をベースとしており、タブレットからクラムシェル、コンバーチブルまで幅広いフォームファクターに対応する汎用設計が特徴です。
また、コードの記述や設計傾向、開発に取り組まれているデバイスの数から、教育市場向け Chromebook に採用される可能性が高いと考えられています。
これまでの動向からも、MediaTek が Chromebook 向けチップセットを積極的に教育・法人分野で広げようとしている可能性があります。
Kompanio 838 (MT8188) の公式仕様
まず、比較対象となる現行の Kompanio 838 (MT8188) について、MediaTek が公式に発表している主な仕様は以下のとおりです。
項目 | 内容 |
---|---|
製造プロセス | TSMC 6 nm |
CPU | 8 コア構成: 最大 2.60GHz (Arm Cortex-A78) × 2 最大 2.00GHz (Arm Cortex-A55) × 6 |
GPU | Arm Mali-G57 MC3 |
メモリ | LPDDR4X |
ストレージ | UFS 2.1 eMMC 5.1 |
ディスプレイ | 最大 4K 60Hz 出力対応 |
カメラ | 最大 64 MP ハードウェア HDR ISP |
AI エンジン | MediaTek APU 650 |
コネクティビティ | Wi-Fi 6 Bluetooth 5.2(別チップでサポート) |
その他 | AV1 ハードウェアデコード対応 複数モニタ出力対応 |
この構成からも分かるように、MT8188 はミドルレンジ帯の Chromebook に最適化された設計であり、効率性とコストのバランスを重視したチップセットです。
実際に Lenovo Chromebook Duet 11 Gen 9 で採用され、軽量タブレットタイプでも快適なパフォーマンスと比較的長いバッテリー駆動時間を実現しています。
MT8189 : 「Skywalker」シリーズから広がる次世代チップ
これまで Chromium Gerrit などで発見されている MediaTek MT8189 は、次期 Chromebook 向けチップセットとして開発が進められています。
現時点では、「Skywalker」と「Jedi」プラットフォームをベースに、従来のタブレット型に限らず、クラムシェルやコンバーチブル、2-in-1 など多様な形態の Chromebook に対応します。
現時点で確認されている開発ボード(リファレンスボードを含む)は「Padme」、「Yoda」、「Anakin」、「Baze」、「Tarkin」、「Quigon」、「Phasma」など 10 を超えており、Chromebook の新しい標準世代となる可能性があります。ちなみに、これらの開発コードネームは「スター・ウォーズ」の登場人物に由来しています。
現在開発中のボード一覧(2025 年 10 月 8 日時点)
- Skywalker
- Obiwan
- Luuke
- Yoda
- Anakin
- Quigon
- Baze
- Tarkin
- Phasma
- Jedi
- Padme (キーボード: Eirtae)
現時点では、MT8189 の詳細な仕様についての公式情報はありませんが、以前「Yoda」をベースとしたデバイスのベンチマークが Geekbench に登場しました。
ベンチマークや開発中の情報などから、少なくとも次のような仕様になることが示唆されています。
予想される仕様
項目 | 内容(暫定) |
---|---|
CPU | 8 コア構成: 最大 2.60GHz (Arm Cortex-A78) × 4 最大 2.00GHz (Arm Cortex-A55) × 4 |
GPU | Mali-G57 系列を継続採用 (ドライバ最適化による描画効率の改善が期待) |
メモリ | LPDDR4X 対応(変更なし) |
ディスプレイ | 最大 QHD+ クラスの高解像度パネルをサポート |
対応ボード | 「Skywalker」および「Jedi」系 10 機種以上 |
Geekbench スコア | シングルコア 1,030 前後 マルチコア: 2,200 前後 |
製造プロセス | 6 nm 継続の可能性が高い |
設計面では MT8188 をベースにしつつ、フォームファクターや利用シーンを拡張する汎用性を強化しており、教育・法人市場向けモデルを含む幅広いカテゴリに対応可能なメインストリームのチップセットになるとみられます。
Chromebook における教育市場向けモデルでは、一定の性能はもちろんのこと、長時間駆動と放熱設計、ネットワーク効率が重視されます。MT8189 はクロック配分を抑えながらもマルチコア性能を維持する構成で、こうした要件に適した電力効率の高さが期待されます。
また、コスト面での優位性も見込まれており、Intel チップセットを搭載するモデルと比べて、より低コスト、もしくは同等の価格帯でも同クラス以上のパフォーマンスを実現できる可能性があります。
MediaTek は Kompanio ブランドとしてシリーズ展開を続けており、MT8189 もこの流れの中で位置づけられる可能性があります。将来的に何と言う名前で呼ばれるかはわかりませんが、「Kompanio 848」あるいは「Kompanio 849」とされるかもしれません。
両モデルの比較
改めて、MT8188 と MT8189 の現時点における比較です。
比較項目 | MT8188 (Kompanio 838) | MT8189 (開発中) |
---|---|---|
製造プロセス | 6 nm (TSMC) | 6 nm(継続見込み) |
CPU 構成 | 2×A78 + 6×A55 | 4×A78 + 4×A55(推定) |
GPU | Mali-G57 MC3 | Mali-G57(ドライバ最適化版) |
AI 処理 | APU 650 | 改良版 APU 650 相当(推定) |
メモリ対応 | LPDDR4X | LPDDR4X |
対応デバイス | タブレット中心 (Duet 11 など) | クラムシェル/コンバーチブル/教育モデルなど多様 |
ボード数 | 限定的 | 10 機種以上(Skywalker 系) |
Geekbench スコア | シングルコア: 約 950 マルチ: 約 2,000 | シングル: 約 1,030 マルチ: 約 2,200 |
位置づけ | 現行ミッドレンジ | 後継・汎用派生モデル(教育市場含む) |
このことから、MT8189 は MT8188 から大きなアップグレードが行われるというより、より柔軟なフォームファクターと教育市場対応を見据えたマイナーアップデートと位置づけらる可能性があります。
構成は近く、製造プロセスも同じ 6 nm のままと見られますが、CPU クラスター配分や電力制御が見直され、性能と効率の両立を図っているとみられます。
まとめ
MT8188(Kompanio 838)は、Chromebook 向けチップセットの中核を担う安定したミドルレンジモデルとして優れていますが、現時点ではごく限られたデバイスでのみ採用されています。
一方、開発中の MT8189 は「Skywalker」ベースの広範なプラットフォームを対象とし、同系統の設計を維持しながらも、10 を超える開発ボードで展開される次世代主力チップとなる可能性が高いです。そのため、次世代のエントリーからスタンダードクラスの Chromebook のなかで、MT8189 はその中心的なチップセットになる見込みです。
MediaTek は引き続き Chromebook 向けプロセッサ市場で存在感を高めており、MT8189 はその次の展開を象徴するチップとなりそうです。