MediaTek、Dimensity 9400e を発表。Dimensity 9300+ とほとんど変更はない

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MediaTek は 2025 年 5 月 14 日、予告していたとおりにスマートフォン向けの新しいチップセット「Dimensity 9400e」を発表しました。

このチップセットは、既存のフラッグシップチップセット Dimensity 9300+ のマイナーアップデート版と位置づけられ、同様の「オールビッグコア CPU アーキテクチャ」や GPU、AI プロセッサを共有しつつ、接続機能を中心にいくつかの改良が加えられています。

目次

Dimensity 9400e の主要機能とスペック詳細

Dimensity 9400e は、最先端の TSMC 第 3 世代 4nm プロセスで製造され、電力効率とパフォーマンスの両立を図っています。以下に主な特徴と仕様をまとめます。

CPU と電力効率

Dimensity 9400e の CPU は、Dimensity 9300+ と共通の8コア構成です。

  • CPU構成:
    • Arm Cortex-X4 (Super Core) ×1 (最大 3.4GHz)
    • Arm Cortex-X4 (Super Core) ×3 (最大 2.85GHz)
    • Arm Cortex-A720 (Big Core) x4 (最大 2.0GHz)
  • キャッシュ: 8MB L3 キャッシュ + 10MB システムレベルキャッシュ (SLC)

この構成により、複雑なマルチタスク処理や負荷の高いアプリケーションにおいても、優れた応答性と処理能力を発揮することが期待されます。

また、TSMC の第 3 世代 4nm プロセス採用に加え、MediaTek 独自の電源管理技術、革新的なハイブリッドインダクタ設計、低消費電力接続技術などにより、チップセット全体の電力効率を高め、スマートフォンのバッテリー持続時間の向上に貢献しています。

GPU

グラフィックス処理にも、Dimensity 9300+ と共通の 12コア Arm Immortalis-G720 MC12 GPU を採用。

  • ハードウェアレイトレーシング: 現実世界に近い光の反射や陰影をリアルタイムに描画するハードウェアレベルのレイトレーシングに対応し、対応ゲームにおいてコンソールゲーム機に匹敵するような高品質なグローバルイルミネーション効果を実現
  • MediaTek HyperEngine:
    • Adaptive Gaming Technology (MAGT 2.0): フレームレートの安定性を高めつつ、消費電力を抑える適応型ゲーム技術
    • Frame Rate Converter (MFRC 2.0+): 対応ゲームにおいて、有効時に最大 40% の消費電力削減効果があるとされている

これにより、ゲーマーはよりスムーズで長時間のプレイを、より低い電力消費で楽しむことが可能になります。

AI 機能

AI プロセッサには、Dimensity 9300+ と共通の MediaTek NPU 790 を搭載し、スマートフォン上での AI 処理能力を大幅に向上。

  • MediaTek NeuroPilot SDK 対応: 開発者はこの SDK を利用して、革新的な生成 AI アプリケーションやサービスを効率的に開発できます。
  • オンデバイス大規模言語モデル (LLM) サポート: DeepSeek-R1-Distill (Qwen1.5B/Llama7B/Llama8B)、Gemini Nano (マルチモーダル対応)、LLaVA 1.5 7B など、グローバルで主流となっている様々な LLM や SLM (小規模言語モデル) をスマートフォン本体で直接実行可能です。
  • 推論処理の高速化: 強化された推論デコード技術 (SpD+) により、LLM の演算効率を高めています。

これにより、クラウドを介さずに、オンデバイスで高速かつセキュリティにも配慮された環境で AI を実行することができます。

接続性

Dimensity 9400e は通信機能において、Dimensity 9300+ からいくつかの重要なアップデートが施されています。

  • Wi-Fi 7 対応: 2.4GHz/5GHz/6GHz のトライバンド同時接続に対応し、5つのデータストリームを活用することで理論上の最大通信速度は 7.3Gbps に向上しました (Dimensity 9300+ は最大 6.5Gbps)。MediaTek Xtra Range™ 3.0 技術 (Dimensity 9300+ は 2.0) により、Wi-Fi の通信範囲と安定性が向上しています。
  • 長距離 Bluetooth 6.0: Bluetooth のバージョンが 5.4 から 6.0 に進化し、デュアル Bluetooth エンジンを搭載。特筆すべきは、見通しの良い場所であれば、スマートフォン同士で最大 5km という長距離通信が可能になりました。これは、従来のスマートフォンチップセットでは見られなかった大きな特徴です。また、Bluetooth オーディオの帯域幅も向上 (最大 12Mbps) しています。
  • 高速 5G モデム: Sub-6GHz 帯における 4CC (4キャリアアグリゲーション) をサポートし、理論上の下り最大速度は 7Gbps。MediaTek 5G UltraSave 3.0 技術による省電力化も図られています。デュアルSIMデュアルアクティブにも対応します。 (この点は Dimensity 9300+ と共通)

イメージング

Dimensity 9300+ と同様に、18 ビット RAW ISP (イメージシグナルプロセッサ) を搭載し、静止画・動画撮影能力が向上しています。

  • 最大カメラセンサー: 320MP までのカメラセンサーに対応。
  • ビデオ撮影解像度: 最大 8K30fps または 4K60fps での撮影が可能です。
  • AI セマンティックセグメンテーションビデオエンジン: 動画内の最大 16 種類のシーンやオブジェクトを AI が認識し、それぞれに最適な画質調整を行うことで、映画のようなプロフェッショナルなビデオ撮影体験を提供します。
  • 高ダイナミックノイズリダクション (オーディオ): 3 つのマイクを使用した録音時に、風切り音や周囲の騒音を効果的に低減し、クリアな音声を収録できます。

ディスプレイとオーディオ

これも Dimensity 9300+ と共通しています。

  • Bluetooth オーディオ: 24bit/96KHz の高音質・無損失 Bluetooth オーディオ再生をサポート。従来の Bluetooth と比較して帯域幅が 4 倍 (12Mbps) に向上し、35ミリ秒未満という超低遅延を実現しています。
  • ディスプレイ: 最大 WQHD (2560×1440) 解像度で 180Hz、または 4K 解像度で 120Hz の高リフレッシュレート表示に対応。AI によるインテリジェントな被写界深度処理や、AMOLED パネルの焼き付き防止技術も搭載しています。

Dimensity 9300+ からの変更点

Dimensity 9400e は、多くの点で Dimensity 9300+ の仕様を継承しており、事実上、同チップセットのマイナーチェンジ版、あるいは一部機能を強化したリブランド版と見ることができます。CPU、GPU、AI プロセッサ、製造プロセス、カメラ関連の主要スペックは共通です。

主な変更点は以下の通りです。

  • メモリサポート: Dimensity 9400e は LPDDR5X (最大 8533Mbps) をサポートするのに対し、Dimensity 9300+ はより高速な LPDDR5T (最大 9600Mbps) もサポートしています。これは、Dimensity 9400e がよりコストを意識したセグメントを狙う可能性を示唆しています。
  • Wi-Fi 性能: Dimensity 9400e は Wi-Fi 7 の理論最大速度が 7.3Gbps に向上し、MediaTek Xtra Range 技術も 3.0 にアップデートされています。
  • Bluetooth 機能: Dimensity 9400e は Bluetooth 6.0 を採用し、最大 5km の長距離通信と帯域幅の向上が図られています。これは Dimensity 9300+ の Bluetooth 5.4 からの明確な進化点です。
  • キャッシュ構成: Dimensity 9400e の L3 キャッシュは 8MB、SLC は 10MB です。Dimensity 9300+ は「18MB L3 + SLC cache」とされており、L3 キャッシュ単体で見ると Dimensity 9400e の方が少ない可能性がありますが、SLC との組み合わせや全体のキャッシュ戦略によって性能への影響は変わる可能性があります。

これらの変更点から、Dimensity 9400e は Dimensity 9300+ の高い基本性能を維持しつつ、特に無線接続技術を強化し、メモリ周りを調整することで、Dimensity 9400/9400+ との差別化を図り、より広範な価格帯のフラッグシップスマートフォンへの搭載を目指していると考えられます。

まとめ

MediaTek の新しい Dimensity 9400e は、既存の Dimensity 9300+ をベースに、特に Wi-Fi と Bluetooth の接続機能を大幅に強化したチップセットです。CPU や GPU、AI プロセッサといった基本性能は Dimensity 9300+ と同等レベルを維持しており、高い処理能力が期待できます。

最大 5km という Bluetooth 通信距離は大きな変化ですが、メモリのサポートクロックは Dimensity 9300+ より抑えられており、コストと性能のバランスを考慮した結果なのかもしれません。

Dimensity 9400e は、高性能でありながらも、最上位モデルよりは手頃な価格帯のフラッグシップスマートフォンに搭載されることで、より多くのユーザーに最新技術の恩恵をもたらすことを目指しているようです。なお、Dimensity 9400e は OnePlus Ace5 Racing Edition や Realme GT 7 など、2025 年 5 月中に発表されるデバイスに搭載予定です。

出典: MediaTek, Dimensity 9400e, Dimensity 9300+

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著者情報

Masahide Omuraのアバター Masahide Omura Technical Writer

月間平均130万PVの当サイトを8年以上運営している 尾村 真英 です。これまでに 50台以上の Chromebook をレビュー しており、主に小規模事業者を対象に Chromebook や Google Workspace の導入・活用支援も行っています。
現在は、Chrome Enterprise 公式ユーザーコミュニティのモデレーターとしても活動中で、Professional ChromeOS Administrator 資格を保有しています。

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