Chromium Gerrit の公開コードから、MediaTek の次世代チップセット「MT8189」を搭載する Chromebook が、少なくとも 11 機種開発されていることが明らかになりました。
現行の MT8188 (Kompanio 838) の後継となる本チップは、タブレットから 15.6 インチの大型モデルまで幅広いデバイスに採用される見込みで、2026 年前半の登場が期待されます。
本記事では、HelenTech がこれまで追ってきた情報をもとに、まず MT8189 の性能やスペックをベンチマークスコアについて説明し、その後に判明した全 11 機種の開発コードネームなどを整理します。
※本記事の情報は、Chromium Gerrit などの公開ソースコードに基づいています。実際の製品仕様とは異なる可能性があり、製品化を保証するものではありません。
MediaTek MT8189 の予想される仕様と性能
MediaTek MT8189 は、Chromebook 向け SoC「Kompanio」シリーズの新世代チップです。日本でも現在販売中の「Lenovo Chromebook Duet 11 Gen 9」に搭載されている MT8188 (Kompanio 838) の後継になると考えられます。
現時点ではまだ詳細はわかっていませんが、Geekbench にベンチマークが登場したことから、最大クロック周波数やコア構成などは確認することができます。
MT8189 と MT8188 の仕様比較
CPU コア構成の見直しによる安定性や電力効率の向上、AI 処理性能の強化などが期待され、幅広いデバイスでの採用が見込まれます。
比較項目 | MT8188 (Kompanio 838) | MT8189 (開発中) |
---|---|---|
製造プロセス | 6 nm (TSMC) | 6 nm(継続見込み) |
CPU 構成 | A78 × 2A55 ×6 | A78 × 4 A55 × 4 |
GPU | Mali-G57 MC3 | Mali-G57(ドライバ最適化版?) |
AI 処理 | APU 650 | APU 650(改良?) |
メモリ対応 | LPDDR4X | LPDDR4X |
対応デバイス | タブレットのみ | クラムシェルコンバーチブルタブレット |
ボード数 | 限定的 | 10 機種以上(Skywalker 系) |
Geekbench スコア | シングルコア: 約 950 マルチ: 約 2,000 | シングル: 約 1,030 マルチ: 約 2,200 |
位置づけ | 現行ミッドレンジ | 後継・汎用派生モデル(教育市場含む) |
ベンチマーク情報 : Yoda の Geekbench スコア
Geekbench で確認された開発機「Yoda」のスコアは以下の通りです。
- シングルコア: 1031
- マルチコア: 2227

CPU 性能自体は MT8188 から大幅な向上はない可能性がありますが、GPU や NPU (AI 処理)、I/O (入出力) の改善により、実際の使用感は向上すると期待されます。 特に、高解像度ディスプレイのサポートや AI を活用した機能でのパフォーマンス向上が見込まれます。
開発中の MT8189 搭載 Chromebook 一覧(2025 年 10 月時点)
開発は主に「Skywalker」と「Jedi」の 2 種類のベースボード (新モデル開発の土台となる参照設計/リファレンスボード) をもとに進められています。
以下では、それぞれのベースボードに紐づけられたデバイスのコードネームと、開発コードから確認できた仕様についてまとめています。
Skywalker ベース(現在 10 機種)
コード名 | タイプ | 仕様など |
---|---|---|
Obiwan | クラムシェル | タッチ対応 独自配列キーボード eSIM 対応モデルあり キーボードバックライトあり USB-C (PD 3.1) ポート×2 最大 65W 充電 |
Luuke | コンバーチブル | タッチ対応 USB-C USB-A |
Yoda | コンバーチブル | タッチ対応 USB-C (PD 3.1) ×2 最大 65W 充電 |
Anakin | コンバーチブル クラムシェル | タッチ対応・非対応あり 格納式スタイラスペン 最大 45W 充電USB-C (映像出力なし) / USB-A* USB-C は 2 つと 1 つのモデルあり 3.5mm オーディオジャック HDMI 搭載の可能性 |
Quigon | 詳細不明 | |
Baze | コンバーチブル クラムシェル | タッチ対応・非対応あり 15.6 インチクラス テンキー搭載 USB-C ×1 USB-A |
Tarkin | クラムシェル | タッチ対応あり キーボードバックライトあり(SKU による) USB-C (映像出力なし) HDMI 搭載? 45W 有線充電 |
Phasma | 詳細不明 | |
Grogu | コンバーチブル | USB-C ×2 キーボードバックライトあり? smp,c31n2005 バッテリーで ASUS? |
Starros | 詳細不明 |
Jedi ベース(現在 1 機種)
コード名 | タイプ | 仕様など |
---|---|---|
Padme | タブレット | 着脱式キーボード (Eirtae) 12.1 インチ QHD+ クラスの高解像度? TFT LCD USB-C ×1 本体収納式スタイラスペン |
現時点で把握できているデバイスはここまでですが、今後追加される可能性も十分に考えられます。
これまでの開発タイムライン (2025 年)
以下は、MediaTek MT8189 に関する情報を時系列に整理しました。
日付 | 内容 | 過去記事 |
---|---|---|
2024 年 8 月 1 日 | MediaTek が MT8189 の開発に取り組んでいることが報じられる | MediaTek は Chromebook 向けに新たな MT8189 チップの開発に取り組んでいる |
2025 年 2 月 5 日 | Skywalker は ASUS や Acer の Chromebook で採用されるバッテリーでテストされていることが確認 | MediaTek MT8189 搭載 Chromebook 「Skywalker」 は ASUS のデバイスになる可能性 |
6 月 3 日 | Skywalker 派生の 5 機種(Obiwan / Luuke / Yoda / Anakin / Quigon)確認 | MT8189搭載のChromebookが多数開発中。5つの新ボードが追加 |
6 月 18 日 | 6 番目の「Baze」登場(テンキー付き大型モデル) | Bazeが登場。テンキー付きコンバーチブルの可能性 |
8 月 7 日 | Tarkin / Phasma 追加で合計 8 機種に | Skywalkerに2機種追加で合計8機種に |
8 月 8 日 | Yoda の Geekbench スコア登場 | MT8189搭載Chromebookのベンチマーク登場 |
8 月 23 日 | 新ベース「Jedi」と派生「Padme」を確認、合計 9 機種に | MT8189搭載Chromebookに新ベースボード「Jedi」追加 |
9 月 11 日 | Padme がタブレットタイプの可能性 | Padmeはタブレットタイプになる可能性 |
9 月 16 日 | Grogu / Starros 追加で合計 10 機種に | SkywalkerベースのChromebookがさらに2機種追加 |
10 月 8 日 | Padme に 12.1 インチパネルの記述を確認 | MT8189 搭載の Chromebook タブレット「Padme」、12.1 インチ QHD+ ディスプレイを採用か |
今後の展開予想
MT8189 を搭載する Chromebook は、クラムシェル、コンバーチブル、そしてタブレットと多様なフォームファクタのデバイスが開発されています。
現時点では開発中のモデルが 10 機種を超えており、開発も積極的に進められていることから、2026 年前半に開催される CES や BETT などの展示会で正式発表される可能性が高いとみられます。
また、MT8189 のパフォーマンスや、開発中のデバイスに格納式スタイラスペンや着脱式キーボードといった多様な入力方法に対応するモデルが含まれている点を考慮すると、コストパフォーマンスと多様な学習形態への対応が重視される教育市場を主要なターゲットの一つとして位置づけている可能性が考えられます。
現時点で MediaTek から MT8189 に関する公式発表はありませんが、チップセットの発表と同時に、最初の搭載デバイスやリリース時期が明らかにされると予想されます。