Google は 2025 年 11 月 19 日(米国時間)、企業および教育機関の管理者向けに Chrome 143 Enterprise and Education release notes を公開しました。
今回のアップデートでは、Web 標準に影響する XSLT の非推奨化、Gemini の統合拡大、AI モードの強化、管理者向けポリシーの追加など、多岐にわたる変更が含まれています。
この記事では、公式リリースノートの内容をもとに、Chrome 143 の主要な変更点と今後の予定について紹介します。
Chrome ブラウザの主な変更点
Chrome 143 では、次のような変更が導入される予定です。
XSLT の非推奨化と段階的削除が開始
Chrome 143 では、古い XSLT v1.0 のサポートが正式に非推奨になりました。
XSLT は 1999 年に標準化された古い仕様で、クライアントサイドでの利用は減少しており、Chromium が用いている libxslt も十分にメンテナンスされていません。
このため、XSLT は以下のスケジュールで段階的に削除されます。
- Chrome 143: 非推奨化(機能はまだ動作)
- Chrome 152: Origin Trial とエンタープライズポリシーでの延命テスト開始
- Chrome 155: OT / ポリシー利用者以外では XSLT が無効化
- Chrome 164: OT / ポリシーも完全無効化し、全ユーザーで削除
古い Web アプリを運用している組織は影響を受ける可能性があるため、早期の確認が推奨されます。
ICU 77.1(Unicode 16 対応)への更新
Unicode ライブラリ ICU が 74.2 から 77.1 にアップデートされ、Unicode 16 がサポートされました。これにより、ロケール依存のフォーマットで以下の変更が発生します。
- イタリア語: 4 桁の数値の千区切り(1.234 → 1234)が省略
- 英語ロケール(en-AU / en-GB / en-IN): 曜日の後ろにカンマが追加
Intl API の出力を前提にした Web アプリでは影響が出る可能性があります。
AI モードの強化
macOS・Windows 版 Chrome に AI モードが統合され、NTP(新しいタブページ)やオムニボックスから直接 AI へ質問できるようになりました。
管理者は以下のポリシーで制御できます。
- AIModeSettings
- GenAiDefaultSettings
Chrome 144 では、複数タブの内容を AI と共有して比較・要約できる マルチタブコンテキスト機能が追加される予定です。
Chrome に統合された Gemini(Gemini in Chrome)
Chrome 143 からは、米国の Google Workspace ユーザー向けに Gemini の統合が拡大します。
- 表示中のページの要約
- 概念の説明
- 質問への回答
- Gemini Live(音声会話)
さらに Chrome 143 では、最大 10 個のタブを同時参照できるマルチタブコンテキスト機能も導入されます。
管理者は以下で制御可能です。
- GeminiSettings
- GenAiDefaultSettings
Chrome 143 で追加された新ポリシー
Chrome 143 では、以下の管理ポリシーが追加されました。
- DisableScreenshots
- スクリーンショットの取得を無効化(Android でも利用可能)
- GeminiActOnWebSettings
- Gemini アプリが Web ページ上で直接操作する機能を許可
- AutoSelectCertificateForUrls
- 指定 URL でクライアント証明書を自動選択(Android 対応)
- CloudProfileReportingEnabled
- iOS Chrome のクラウドプロファイルレポートを有効化
- ProvisionManagedClientCertificateForUser / Browser
- Android における管理対象プロファイル・ブラウザへのクライアント証明書プロビジョニングを有効化
Chrome Enterprise Core の変更点
Chrome 143 における Chrome Enteprise Core の主な変更点は、次のとおりです。
管理コンソールの「動的な推奨事項」
管理コンソールの Chrome 概要ページに、組織の設定状況に応じて更新される Dynamic Recommendations が追加されます。
設定変更の案内、アラート、新機能、リリースノート確認などを一覧で確認できます。
新しいタブページへの企業管理ショートカット
管理者は NTPShortcuts ポリシーで、最大 10 個のショートカットをユーザーの新しいタブページに表示できます。Chrome 143 で一般提供が開始されました。
iOS 版 Chrome のクラウドプロファイルレポート
Chrome Enterprise Core が、iOS 版 Chrome のプロファイルレポートに対応しました。ブラウザ情報、OS、適用ポリシーなどがレポートされます。
Chrome Enterprise Premium の変更点
Chrome 143 における Chrome Enteprise Premium の主な変更点は、次のとおりです。
Android 版 Chrome のクライアント証明書サポート
管理対象ブラウザ・プロファイルの双方で、Android にクライアント証明書を展開可能になりました。
StrongBox などのハードウェアバックアップストレージを利用することで、安全な認証が可能になります。
今後予定されている主な変更点
Chrome 143 のリリースノートでは、今後の更新予定についても触れられています。
セキュリティ関連
- セキュリティ設定のバンドル化 (Chrome 144): 「標準」「拡張」の 2 プリセットで簡単に選択可能
- Android のオンデバイス詐欺検出 (Chrome 144): ページの視覚特徴を用いて端末内で詐欺判定
- HTTPS 非対応サイトの警告デザイン変更: Android は Chrome 143 から、デスクトップは Chrome 141 で提供済み
管理・アプリ関連
- Early Stable のリリースが 1 週間早まる(Chrome 145)
- 強制インストール拡張機能の扱い変更(Chrome 145)
- Safe Browsing API の v5 移行(Chrome 148)
- DLP スキャンのファイル上限拡大(最大 2GB、Chrome 145)
また、今回のリリースは AI 関連機能や Web 標準にも影響する変更が含まれるため、管理者は組織のポリシー設定やアプリ互換性を定期的に確認する体制を整えておくと安心です。
まとめ
Chrome 143 では、AI 関連機能やセキュリティ設定の変更が多いため、組織で利用している Web アプリの互換性と既存ポリシーの整合性を事前に確認しておくことが推奨されます。
特に XSLT の削除、ICU のフォーマット更新、AI モードと Gemini の展開範囲については影響が異なるため、ポリシー設定とアプリ動作の両面で早めの検証を行うと安心です。
今後の予定に含まれるセーフブラウジング機能の更新や拡張機能の扱い変更については、次期バージョンアップ時に影響が生じる可能性があるため、あらかじめ確認しておく必要があります。
また、AI 関連機能の拡大が続くため、組織内のポリシー設定やアプリの動作検証を継続的に行えるよう、運用体制を整えておくことが重要です。
なお、Chrome 143 のリリースは 2025 年 12 月 2 日、ChromeOS 143 のリリースは 2025 年 12 月 16 日に予定されています。


