Intel の次世代モバイル向けプロセッサ「Panther Lake (PTL)」を採用する Chromebook の開発が進んでいます。
すでに Chromium Gerrit の公開コードから、ベースとなるリファレンスボード「Fatcat」を中心に、複数の派生モデルが登場していることが確認されています。
現在、開発中の Panther Lake 搭載 Chromebook には Felino、Francka、Kinmen、Lapis、Ruby の 5 つがあり、2026 年のリリースに向けて、すでに試作・検証段階として取り組んでいることが示されています。
本記事では、現時点(2025 年 10 月 18 日)で確認できている Panther Lake を搭載する Chromebook の開発状況をまとめます。
Fatcat ファミリーの登場と派生モデル
「Fatcat」は Intel の Panther Lake プロセッサを搭載する Chromebook 向けのリファレンスボード(量産機の開発前段階で使う)として、2024 年末ごろに初めて発見されました。
このボードをベースとして、現在は 5 つの主要派生モデルと、検証用ラインが確認されています。
- Felino(フェリーノ):クラムシェルタイプ、Acer の可能性が高い
- Francka(フランカ):コンバーチブルタイプ
- Kinmen(キンメン) : クラムシェルタイプ、Lenovo の可能性もある
- Lapis(ラピス): クラムシェルタイプ、ASUS の可能性が高い
- Ruby(ルビー): クラムシェルタイプ
- Moonstone(ムーンストーン):USB4・Thunderbolt 実装検証ライン
Panther Lake 世代の実機試作段階に入っており、開発は順調に進んでいると見られます。

Felino : クラムシェル、Acer の可能性
「Felino(フェリーノ)」は、Intel の Panther Lake を採用する Chromebook 向けリファレンスボード「Fatcat」から派生したモデルのひとつで、開発初期から最も活発に動いている派生ラインです。

Felino の設定では、タブレットモードや回転ヒンジなどに関する記述がないことから、Chromebook の中でも標準的なクラムシェル(ノートパソコン)タイプのデザインを想定していると考えられます。
また、Chromium Gerrit のバッテリーに関するコミットから、 SMP の「AP23B7Q」や LGES の「AP22A8N」と「AP23A8L」といった記述が確認されています。これらは Acer 製 Chromebook で広く採用されている型番であり、Felino は Acer 製の Chromebook になる可能性が高いことが示唆されています。

Francka : コンバーチブル
「Francka(フランカ)」は、Fatcat をベースにした コンバーチブル型(画面を反転してタブレットのように使える 2-in-1)を想定した派生モデルです。

キーボード関連の設定やタブレットモード切り替えに関する記述がそろっており、折りたたみヒンジを備えた 360 度回転タイプの設計を見据えていると考えられます。

現時点で確認できる情報から、バックライト付きキーボードとファンを搭載しており、2 つの USB-C ポートと少なくとも 1 つの USB-A ポートを備える構成であることが示唆されています。
また、Francka では CosMX・LG Energy Solution・Panasonic の 3 社製バッテリーが登録されています。HP の可能性も考えられるものの、型番からは Acer の可能性もあり、まだどのメーカーかは特定できていません。
Kinmen : クラムシェル、Lenovo の可能性
「Kinmen(キンメン)」は、今年 4 月に開発が始まった 3 つ目のボードです。このデバイスには、3 つの USB-C ポートと 1 つの USB-A ポートが搭載され、最大 100W(20V / 5A)の充電をサポートする高出力設計となっています。

バッテリーには CosMX・ATL・LG Energy Solution の 3 社が登録されており、この構成は Lenovo の Chromebook で多く見られる組み合わせです。加えて、多くの Lenovo 製 デバイスが使用する Strauss(T14)レイアウトのバックライト付きキーボードを採用しています。

そのため、Kinmen は Lenovo の 14 インチ以上のクラムシェルタイプ、高出力を必要とするハイスペックの Chromebook としてリリースされる可能性があります。
Lapis : クラムシェル、ASUS の可能性
「Lapis(ラピス)」は、今年 9 月から開発が始まったボードで、他モデルに比べ軽量・薄型化を意識した設計が確認されています。ファンを搭載しつつも省電力構成を採用しており、内部構成からは 14 インチクラスの薄型モバイル Chromebook を想定していると考えられます。
バッテリーには CosMX の「C22N」が採用されており、これは ASUS の Zenbook や Chromebook Flip CX シリーズなどに使われている薄型セルであることから、ASUS の Chromebook になる可能性が高いと考えられます。

なお、本体には 2 つの USB-C ポートと 1 つの USB-A ポートが搭載される予定です。

Ruby : クラムシェル
「Ruby(ルビー)」は、10 月から開発が始まったボードで、 2 つの USB-C ポートと 1 つの USB-A ポートが搭載され、18 列のキーマトリクスを採用していることから、14 インチ以上のデバイスになると予想されます。
バッテリーは Francka と同じ CosMX・LG Energy Solution・Panasonic の 3 社を採用していますが、このボードは最近開発が始まったばかりのため、今後変更される可能性も十分にあります。
その他の検証用と見られる派生ライン
Moonstone(ムーンストーン)は、Fatcat ベースの派生のひとつですが、Kinmen の構成を広く流用しており、特定メーカーの筐体ではなく、Panther Lake 世代の USB4 や Thunderbolt 互換実装を確認するための検証を目的とした開発ラインと見られます。
バッテリーには ATL・SMP が登録されており、評価用ユニットとして複数セルの検証が行われている段階と考えられます。
このほか、-ish など名前に試験的接尾辞を持つサブラインも確認されており、I/O 構成や電力制御、PD 検証などを行うためのリファレンス寄り開発環境として運用されている可能性があります。
まとめ
これらの情報から、Intel の Panther Lake を採用する Chromebook は、単一の試作機ではなく、複数の形状やメーカーを想定した開発ラインとして進んでいることが分かります。
Intel は 2025 年後半に Panther Lake プロセッサの出荷を開始する見込みで、Chromium Gerrit 上の進捗から見ても、Chromebook 向けの開発はすでに試作・検証段階に入っています。
そのため、最初の Panther Lake 搭載 Chromebook が登場するのは 2026 年前半(早ければ春ごろ)と予想されます。
これらのモデルはいずれも新しい AI 処理ユニット(NPU)を備える Panther Lake の特性を活かし、Chromebook Plus として新しい AI 機能(特にローカル AI 機能)の活用を前提にした最適化が行われている可能性もあります。ただし、Panther Lake のどのチップを搭載するかはまだ分かりません。
また、すでに MediaTek から 50 TOPS の AI 処理性能を実現し、パフォーマンスとバッテリー駆動時間を高い次元でまとめている Kompanio Ultra 910 を搭載する Chromebook Plus が発売されているため、その競合となることが期待されます。
2026 年は、Chromebook のパフォーマンスだけでなく、AI 活用という観点でも大きく変化する節目となりそうです。

出典: Chromium Gerrit