Google は 2025 年 11 月 25 日(現地時間)、Google の最新モデル「Gemini 3」を開発者が API から利用できるようにしたことを発表しました。
最先端の推論や自律的なコード生成、複雑なマルチモーダル認識を前提とした設計がさらに洗練され、特にエージェント向け機能が大きく強化されています。
Gemini 3 は Google のラインアップでも最も高度な推論能力を持つモデルで、今回のアップデートでは、開発者が推論の深さやメディア処理の解像度を細かく制御できるようになったほか、エージェントが長いタスクを一貫して進めるための仕組みも刷新されています。
「thinking_level」で思考プロセスを制御可能に
今回の大きな変更点のひとつが、新しいパラメータ thinking_level の導入です。
これは回答生成前にモデルがどの程度まで内部推論を行うかを相対的に指示できる仕組みで、厳密なトークン消費ではなく「思考の深さ」を指定するものです。
High を選ぶと、戦略的な判断や脆弱性診断など、深い検討が必要なタスクで高い精度を発揮します。一方で Low は、要約やデータ抽出など速度やコストを重視する用途に適しています。
開発者は用途に応じて柔軟に推論の深度を調節できるため、アプリケーションの応答性と品質を両立しやすくなります。
ちなみに、Google Antigravity で Gemini 3 Pro を使用するときに、 High または Low を選択できるようになっています。
マルチモーダル入力の処理量を「media_resolution」で調整
Gemini 3 はテキスト、画像、動画、PDF など複数のモダリティを統合して理解できますが、今回のアップデートではこれらのメディア入力に使用するトークン量を media_resolution で指定できるようになりました。
設定は low / medium / high の 3 段階で、細かな文字起こしや画像内の小さな要素を読み取る場合は high が有効です。ただしその分トークン消費やレイテンシが増すため、コストと精度のバランス調整に利用することが想定されています。
未指定時はメディアタイプに応じて自動的に適切な値が適用されます。
推論の一貫性を保つ「Thought Signatures」が必須化
複雑なエージェントワークフローの品質向上を目的として、Gemini 3 API では「Thought Signatures (思考シグネチャ)」を返すことを必須としました。
これはモデル内部の推論内容を暗号化したもので、次の API 呼び出しに渡すことで、生成過程の連続性を維持します。
特に Function Calling や画像生成・編集の場面では厳格に検証され、欠落していると 400 エラーが返されます。
テキスト生成では厳密ではないものの、Thought Signatures を省略すると推論の質が低下するため、開発者には利用が推奨されています。
なお、公式 SDK や標準のチャット履歴を使用する場合は自動処理されます。
Google 検索によるグラウンディングと構造化出力の併用が可能に
Gemini 3 は外部ツールとの連携も強化されており、「Google 検索によるグラウンディング (Grounding with Google Search)」や「URL コンテキスト」を活用したリアルタイム情報の取得と同時に、JSONなどの構造化出力形式で結果を返すアプリケーションが構築しやすくなりました。
検索と AI 推論を組み合わせたエージェント設計では需要の高い領域で、最新情報を正確に抽出し、即座にデータ化するワークフローを簡易に構築できます。
Google 検索によるグラウンディングの価格体系を変更
エージェントワークフローの普及に対応するため、Google は Google 検索によるグラウンディングの価格を従量課金制に変更しました。
- 旧料金:プロンプト 1,000 回あたり 35ドル
- 新料金:検索クエリ 1,000 回あたり 14ドル
より細かい検索処理を頻繁に実行するエージェントの開発に向いた料金体系へと移行しています。
Gemini 3 Pro を扱う際のベストプラクティス
Google は、Gemini 3 Pro をアプリケーションで利用する際の推奨事項も公開しています。ポイントは次の通りです。
- Temperature はデフォルトの 1.0 を維持すること
- プロンプト内の構造(例:XML)を一貫して使用し、曖昧な表現は避ける
- Gemini 3 は簡潔な出力を好むため、会話調が必要なら明示的に指定する
- 複数モダリティを使用する場合は、モデルに扱うメディアの種類を明示する
- 制約や役割の定義は system instruction またはプロンプト先頭に設置
- 大規模コンテキストを扱う場合、具体的な指示は最後に配置する
また、研究チームはエージェント性能向上のためのシステム指示テンプレートも公開しています。
まとめ
今回の API アップデートにより、Gemini 3 はエージェント構築に特化した強力なモデルとしてさらに洗練されました。
推論の深さやメディア処理量を柔軟に調整できるようになったことで、業務システムから Web アプリ、研究用途まで幅広いユースケースで扱いやすくなります。
特に、「thinking_level」や「Thought Signatures」の導入は、AI が自律的にタスクを進めるための重要な基盤であり、今後の AI エージェントの実用化を大きく後押しするものと言えます。


