Google Pixel は、最新の Android OS と様々な AI 機能、カメラ機能で知られていますが、その特長が悪用され、スペインの一部地域では「犯罪者のためのスマートフォン」という不名誉な評判を得てしまっているようです。
スペイン・カタルーニャ州の警察関係者は「我々が Google Pixel を見るたび、麻薬売人のものではないかと疑う」と語っており、組織犯罪における Pixel の利用が深刻な問題となっています。
これは Google や Pixel 自体の欠陥ではなく、Android OS の持つ「オープンな性質」が犯罪者にとって格好のツールとなっていることが原因です。
なぜ Pixel が犯罪者に悪用されるのか
Pixel が犯罪組織に好まれる理由は、ソフトウェアとハードウェアの両方に及ぶ徹底したカスタマイズが可能である点に集約されます。
プライバシーを極限まで高めるOS「GrapheneOS」
犯罪者が利用しているのは、プライバシーとセキュリティに特化したカスタム OS「GrapheneOS」です。 この OS を導入することで、以下のような秘匿性の高い環境を構築しています。
- Google からの独立: Google の各種サービスからデータを切り離し、追跡を困難にします。
- 強力な暗号化: 通信内容だけでなく、端末内のデータやメタデータも完全に暗号化します。
- 推奨される Pixel デバイス: GrapheneOS は、優れたセキュリティと長期的なアップデート保証を理由に、Pixel デバイスでの利用を強く推奨しています。 特に Pixel 8 シリーズ以降に搭載された ARM V9 CPU のハードウェアメモリタギング機能は、セキュリティをさらに強固なものにしています。
徹底した物理的改造と機能の悪用
ソフトウェアの変更に加え、物理的な改造も行われています。 追跡のリスクを排除するため、GPS、マイク、そして Pixel の特徴であるカメラさえも端末から物理的に取り除いていることが確認されています。
さらに、PIN コードを数回間違えるとデータが全消去される設定や、Google の「デバイスを探す (Find My Device)」機能による遠隔データ消去も、証拠隠滅のために悪用されています。
高度化する犯罪と警察の対抗策
このように高度に秘匿化されたデバイスに対し、警察も新たな捜査手法で対抗しています。
暗号化を破る「トロイの木馬」
従来の通信傍受が通用しないため、警察は裁判所の許可を得て、対象のスマートフォンに「トロイの木馬」と呼ばれるマルウェアを感染させています。 これにより、暗号化を迂回してデバイスに直接アクセスし、アプリ、画像、文書、会話といったあらゆる情報を入手することが可能になります。 GrapheneOS といえども、この種のマルウェア攻撃を完全に防ぐことはできません。
この手法はプライバシー侵害の観点から議論の的となることもありますが、2020 年にヨーロッパで摘発された「Encrochat 事件」では、フランス警察が同様の手法で 6,500 人以上を逮捕する大きな成果を上げています。
まとめ
Google Pixel の持つ優れたセキュリティハードウェアと、ユーザーが自由に改造できるオープンな性質は、本来は大きな長所です。
しかし、その長所が犯罪者によって最大限に悪用され、結果として「犯罪に最適なスマートフォン」という不名誉なレッテルを貼られる事態となっています。
とは言え、ユーザーとしては自由度の高さが Android の魅力の一つではあるため、この問題は特定の製品に起因するものではなく、テクノロジーの自由度が、その意図とは関係なく悪用されうる可能性を示唆しています。